猫の去勢・避妊手術の重要性と多頭飼育崩壊について

猫を飼い始めた時、まっさきに言われるのが去勢・避妊手術について。もし手術しなかった場合、起こる問題は何も発情期の問題行動だけではありません。猫にとっては文字通り一世一代の手術、しっかりと去勢・避妊手術の意味について考えてみましょう。

今回はオス猫の去勢手術、メス猫の避妊手術についてと、近年問題になっている猫の多頭飼育崩壊について解説していきます。

1オス猫の去勢手術について

オス猫の発情行動は、メス猫よりも攻撃的なものが目立ち、周囲の環境に少なからず影響を与えます。発情の性質も考慮すると、手術の重要性がよりイメージしやすいかと思います。

ここではオス猫の発情行動と、去勢手術の流れについて解説します。

1.1オス猫の発情行動

オス猫には発情期がなく、メス猫の発情した声や匂いにつられて発情します。そのため、一見するとメス猫とオス猫の両方を飼っている飼い主以外は去勢する必要がないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。メス猫の声や匂いはかなり遠くまで届くため、繁殖目的で避妊手術をしていない別の飼い猫はもちろん、野良猫の発情も対象になります。

オス猫は発情すると、メス猫に自分の存在をアピールするために、家から脱走してメス猫の元に向かったり、赤ん坊の鳴き声のような大声を出す、匂いの強い尿をそこかしこにスプレーするようになります。また、自分を選んでもらえるように、他のオス猫や人に攻撃する事も多いです。

猫関係での近隣住民の被害報告の多くが【鳴き声による騒音】と【糞尿の悪臭】であることを考えると、いかに深刻な問題かが分かるでしょう。

1.2去勢手術の一連の流れ

オス猫は大体生後6ヶ月あたりから性成熟が始まり、12ヶ月ほどで生殖行為ができるようになります。したがって、生後6ヶ月より前に手術をするのが理想ですが、猫の状態や体調によっては身体への負担が大きくなってしまうこともあるため、まずは動物病院で手術のタイミングを相談しましょう。

去勢手術できるタイミングになったら、術前検査をすることが推奨されています。というのも、手術は全身麻酔をかけて行うため、何らかの異常があった場合のリスクが考えられるためです。最悪の場合亡くなってしまうこともあるため、必ず事前に貧血していないか、腎臓や肝臓の状態は良好かどうか検査しましょう。

手術内容は外科手術で行い、精巣付近を1cm〜1.5cm切り開いて精巣を摘出、その後止血と縫合※1をして完了という流れ。おおよそ20分前後で終わるため、猫の状態に問題がない場合は日帰りが一般的です。

※1 オス猫は傷口の癒合が早いため、縫合をしない動物病院もあります。

1.3去勢手術後の生活

術後の猫は自分の傷口が気になって噛んだり、いじってしまうことがあるため、基本的にはエリザベスカラーというエリマキのようなものを首に巻かせて生活することになります。もし嫌がるようであれば、ご飯の間や飼い主がしっかり見ていられる時に限り、短時間だけなら外すこともできますが、よほどのことがない限り獣医師に指定された期間内は外さない方が良いです。

傷口は一週間程度で塞がりますし、その間は化膿を防ぐために病院から抗生剤や消炎剤が処方されます。傷口が完全に塞がったら動物病院で抜糸します。その間は猫にとって窮屈な生活を強いることになってしまいますので、傷がふさがったら、存分に可愛がってあげましょう。また、シャンプーやお風呂などは抜糸後から3日程度経過してからになります。

ただし、もし自宅管理の期間中に、排泄がおかしい、元気がないなど、少しでも生活に違和感があるようならすぐに動物病院に連絡してください。

2メス猫の避妊手術について

オス猫は発情期がありませんが、メス猫にはしっかりと発情期があります。そして、メス猫1匹の発情が、周りのオス猫の発情を誘発する事を考えると、避妊手術の有無は飼い主だけの問題ではないかもしれませんね。

ここではメス猫の発情行動と、避妊手術の流れについて解説します。

2.1メス猫の発情行動

メス猫は基本的に春と夏に発情期が到来すると言われていますが、これは半分正解で半分誤りです。猫の発情は犬などのように年2回というように決まっておらず、日照時間の長さによって周期をコントロールしています。電灯などの人工的な明かりでも発情を誘発されるため、都会や常に明るい室内ではいつ発情期になってもおかしくありません。

発情期は到来するとおよそ1週間から2週間続き、その間は鳴き声や尿のスプレーでオス猫を誘います。また、匂いを付けるために背中を床にこすりつけることもあるようです。オス猫が交尾しようとし、またメス猫もそれを許す場合は尾を左右どちらかにずらして交尾します。

2.2避妊手術の一連の流れ

メス猫は早い子は生後4ヶ月で性成熟が始まるため、早めに避妊手術を行うのが理想です。ただ、あまりに早いと身体への負担がかかるため、場合によっては初めての発情期が終わってから手術することもあります。このあたりは、事前に動物病院で相談して決めると良いでしょう。

避妊手術が可能なら、オス猫と同様に術前検査で全身麻酔に耐えられるかどうかを検査します。また、もし高齢で避妊手術を行う場合はX線による胸部検査をする場合もあります。オス猫の項目でも記述しましたが、全身麻酔はかなり負担の大きい行為です。当然獣医師が率先して検査してくれると思いますが、絶対に術前検査を行うようにしましょう。

手術は外科手術によって行います。まず全身麻酔をしたあと、おへそから下部分の皮膚を切り開き、開腹して卵巣のみらもしくは卵巣と子宮を摘出します。その後縫合して終了です。オス猫と違い、こちらは1時間程度かかります。

2.3避妊手術後の生活

術後は傷口をいじったりしないよう、塞がるまでエリザベスカラーを首に巻いて生活します。もし嫌がるなら、飼い主様が見ていられる時間は外すという事もできますが、不意に傷口をいじってしまうこともあるため、よほどの事がない限り外さないでください。

獣医師から指定された自宅管理の期間中は、激しい運動は避け、なるべく安静にして傷の回復を待ちましょう。また、普段と違うような行動や様子を見せるようなら、すぐに動物病院に連絡してください。

何も問題がないなら、およそ1週間で抜糸を行います。シャンプーやお風呂は抜糸までの一通りの流れが終わった後、3日程度待ってからにしましょう。

3多頭飼育崩壊の問題

多頭飼育崩壊、多頭飼育問題とも言われていますが、どれも意味は同じく【適切に飼える数を超えた事による適切飼育の崩壊】です。これが招く影響は自分だけでなく、周囲を巻き込むほど。飼い主になったからには、絶対に避けたい最悪の事態といえます。

ここでは多頭飼育崩壊について解説します。

3.1多頭飼育崩壊とは

多頭飼育崩壊とは、ペットの数が何らかの要因で、飼い主が適切に飼育できる限界を超えるほどにまで増えた状態の事を指します。当然そんな状態ではまともに飼育できるはずもなく、また経済的にも破綻している事が多いです。

結果、糞尿まみれなど不衛生な状態でペットが放置されていたり、病気などでペットが亡くなってしまうという事態になってしまいます。また、不衛生な環境=悪臭のため、近隣住民とのトラブルも多く報告されています。

こうした多頭飼育崩壊が起きる要因として、飼い主の状態が悪化、もしくは精神的、肉体的な問題を抱えているというものがあります。事実、今まで報告されたケースの中には、【認知症などで適切な飼育ができない】、【加齢によって体力的もしくは判断能力的に飼育が不可能となった】、【経済的に適切な飼育を維持できなくなった】という飼い主が多いです。

こうした問題は自分自身の努力だけではどうしようもない部分も大きいため、問題解決のためには周囲のサポートが必要不可欠といえます。

3.2なぜ猫が問題となっているのか

多頭飼育崩壊について語られる時、大抵は猫が話の中心になります。なぜここまで猫の報告が多いのか、それは猫の脅威の繁殖能力にあります。

繁殖力の高さには色々ありますが、猫の場合は【発情期の頻度】【妊娠率の高さ】【性成熟の早さ】の全てが優れており、去勢・避妊手術をしていないとあっという間に数を増します。発情期や性成熟の早さは先述した通り、妊娠率はほぼ100%と言われています。

環境省が公表している資料によると、1頭のメス猫がいれば、1年後には20頭、2年後には80頭にまで増えるとのこと。過去に報告された事例でも、170頭の猫が不適切な飼育されていたというケースもあり、いかに手術していない猫の飼育がリスキーなのかが分かります。

3.3多頭飼育崩壊が招く影響

多頭飼育崩壊による影響は飼い主の経済破綻だけではありません。一般的に影響は【飼い主の生活状況の悪化】【ペットの状態の悪化】【周囲環境の悪化】の3つと言われています。順に見ていきましょう。

まず飼い主の生活状況の悪化。ペットの数が増え、飼い主の管理が不可能になったという事は、糞尿や食べ残しの掃除ができないということ。臭気は当然、悪臭につられて害虫が集まり、ネズミなどの衛生動物の発生など、衛生状態の悪化を招きます。そんな環境に長く居続けるとどうなるかは想像に難くないでしょう。病気や清潔感の欠如、それによる近隣とのトラブルなど、飼い主の生活そのものに多大な影響が出ます。

次にペットの状態の悪化ですが、これは言うまでもないでしょう。栄養不良や不衛生環境での病気、共食い、これらが招く結末は死しかありません。周囲のサポートが無ければ問題解決は難しいと言いましたが、それはつまり第三者の介入が無ければ、この問題は解決しないともいえるでしょう。たとえ保護されたとしても、人間への不信感により新しい飼い主を見つけることが非常に困難なこともそれに拍車をかけています。

最後に周囲環境の悪化、これは要するに近隣住民への被害です。悪臭や騒音、感染症の蔓延リスクなど、多頭飼育崩壊の被害は飼い主やその家だけではありません。警察に報告するだけなら問題はありませんが、最悪の場合は近隣住民とのトラブルに発展する事も考えられます。

4去勢・避妊手術は誰のため?

望まない出産をさせないため、そうは言ってもやはり飼い猫を自分たちの判断で手術し、生殖機能を奪うことに抵抗感を覚える人は多いでしょう。全身麻酔のリスクやその後の生活も考えると、どうしても躊躇ってしまいますよね。

しかし、だからといって手術しないとなれば、様々な問題に発展します。今回は多頭飼育崩壊について説明しましたが、それ以外にも精巣や子宮の病気、他の猫とのトラブルなど、手術しない事によるデメリットは計り知れません。

去勢・避妊手術はあくまで強制ではなく、任意です。しかし、その手術が誰のための手術なのかを考えた時、多くの獣医師が推奨している理由が分かるかと思います。

想花コラム