歯磨きは歯の健康維持のために必要不可欠ですが、犬の歯磨きは嫌がる子も多く飼い主の悩みのタネにもなっています。果たして、犬に無理をさせてでも歯磨きをする必要があるのでしょうか?もし歯磨きをしなかったとしたら、どんな風になってしまうのでしょうか?
今回は歯磨き訓練の仕方や、歯周病について解説していきます。
目次
本当に怖い犬の歯周病
よく歯磨き粉のCMなどで「歯周病には気を付けましょう」なんて言葉を耳にします。怖い病気というのはなんとなく分かっていても、虫歯と混同したり、重症化したらどうなるのかまで知っている人は少ないと思います。
ここでは歯周病の原因や、その恐ろしさについて解説します。
そもそも歯周病って何が原因なの?
人間も含め、生物の口の中には数百種類もの細菌が住んでいます。これだけ聞くと恐ろしい話ですが、彼らは基本的に悪さはしません。しかし、十分な歯磨きをしていないと細菌が増殖して粘着質な物質を作り上げ、歯に付着します。これがよく聞く歯垢(プラーク)というもの。
歯垢はほんの少しの量でも数億~数十億もの細菌が潜んでおり、特に虫歯や歯周病の原因となる細菌が多く存在しており、これらによって歯肉が炎症をひき起こし、やがて歯を支える骨をも溶かしつくします。これが歯周病と呼ばれる病気の正体です。
厄介なのは、歯垢は非常にねばねばが強く、うがいでは洗い流すことができないということ。そして、歯垢は唾液に含まれるカルシウムによって硬くなると歯石という物質に変化し、歯磨きでも取り除けなくなることです。もちろん、歯石にも細菌が入り込んでおり、常に歯周病の原因となる毒を排出し続けます。
歯垢はうがいだけでは流せませんが、歯磨きで取り除けます。常日頃から歯磨きを行い、歯がきれいな状態を維持しましょう。
歯周病のサイン
自分の歯ではない都合上、飼い主様が愛犬の歯周病を察知できるのは【歯石の目視】か【口臭】だと思います。しかし、実はこのどちらも歯周病はかなり進行した状態である事が多く、更に先述したように歯石はブラッシングでは取り除けません。従って、これらのサインが見られた際は自分で何とかしようとせずに動物病院にて歯科治療をしてもらいましょう。
動物の歯周病は早期発見、早期治療が鉄則です。症状が進行すると抜歯を進める獣医師も多く、実際問題として進行状態によっては歯を抜いてでも健康を守った方が良い事もあります。抜歯なんてことにならないよう、日々の歯磨きによるプラークコントロールが大切です。
歯周病が深刻化するとどうなるのか
歯周病はあくまで口内で起きる病気ですが、細菌が口の中に存在する以上、その影響は口の中だけで完結するわけではありません。最悪の状態も含め、歯周病の悪化がどういった影響を及ぼすのか見ていきましょう。
・食欲が無くなる
歯周病によって歯ぐきの状態が悪化すると、犬は痛みを抱えるようになり食べ物を美味しく食べることができなくなります。食事そのものが嫌いな生物はいません。食べたくても痛くて食べられないという状態は、愛犬の精神にも不調をきたす可能性が高いです。
・皮膚に穴が開く
恐ろしい話ですが、炎症によって歯の根元部分に溜まった膿が顎の骨や歯ぐきに穴を開け始め、ついには頬などの皮膚を突き破ることがあります。
・下顎骨の骨折
なぜ顎?と思う方もいるでしょう。重度の歯周病はやがて骨をも溶かし、軽い衝撃でも骨折してしまうくらい脆くなるのです。特に小型犬に多いと言われています。
・その他の病気を誘発
歯周病で歯ぐきが出血すると、そこから血管に歯周病菌が流れてしまう「菌血症」という現象が起こります。菌血症は細菌性心内膜炎や敗血症などの病気をひき起こす原因となるため注意が必要です。
犬が嫌がらない歯磨きの方法
生物にとって口は物を食べたり、得物を狩るための大切な部分であり、好んで触ってほしい場所ではありません。大好きな飼い主であっても、最初から口の中を触られるのは抵抗感が強いでしょう。
ここでは歯磨きの方法を、ステップごとに分けて解説します。
ステップ1~お口に触れる事に慣れさせよう~
口に触れるという行為が初めから好きな動物はいません、まずは触れても嫌がらない程度に慣れてもらいましょう。ご褒美として好きなおやつを与えながら、スキンシップの際に口元も触れるようにしてください。始めのうちは嫌がると思いますが、何度もやっていくと徐々に犬も慣れていきます。
口元に触られるのに慣れてきたら、次は口の中の歯を触っていきます。始めのうちは前歯や犬歯などの近い歯をなぞるように触っていき、それを段階的に奥の方まで出来るようにしていきましょう。ただし、少しでも嫌がるようであれば、噛みつかれる危険性もありますので即時中断してください。焦らず、少しずつが肝心です。
ステップ2~カーゼやシートで簡単な歯磨きをしてみよう~
口の中まで触らせてくれるようになったら、いよいよ歯磨き開始です。ただ、まだブラシで磨かれるのには慣れていませんから、まずは歯磨きシートで歯磨きしてみましょう。シートなら指の感触を感じられるため、愛犬の抵抗感も少ないですし、劇的な効果は期待できないものの、ある程度は歯も清潔になります。
歯磨きシートを抜けないように指にしっかり巻きつけ、ステップ1と同様に前歯や犬歯を優しく触ってください。ゴシゴシ擦っても効果は薄いですし、何より犬が嫌がるため力加減には注意しましょう。慣れてきたら、奥歯まで進めていき、最終的には全ての歯をシートで歯磨きできるようにできたらOKです。
2.3ステップ3~歯ブラシで歯磨きをしてみよう~
いよいよ歯ブラシで歯磨きをしていきます。歯ブラシは人間用の物は毛先が硬すぎたりヘッドが大きすぎたりするので、必ずペット用の歯ブラシを使用してください。また、持つときは鉛筆を持つときのような握り方をするペングリップがおすすめ。細かなコントロールが効きやすく、狙ったところをピンポイントで磨けますよ。
ブラシの角度は45度、歯だけでなく歯と歯ぐきの隙間の歯周ポケットの歯垢を書き出しながら磨いていきましょう。始めのうちは全部やろうとせず、部位ごとに少しずつ磨いてください。ただし、歯垢は3日程度で歯石へと変化するため、最低でも3日で全部磨けるペースで進めましょう。あとは犬の機嫌や状態に合わせて、徐々に一度で磨く範囲を拡大させていけば、最終的に一日で歯磨きが終わるようになりますよ。
犬の歯磨きQ&A
歯磨きの大切さは説明した通りですが、訓練も含めていつ頃から始めたほうがいいのでしょうか?毎日した方がいいのか、それともある程度期間を空けた方がいいのか?
ここではそんな歯磨きに関する疑問に答えていきます。
歯磨きは何歳からした方がいい?
犬も人間と同様に乳歯から永久歯に変わるタイミングがあり、1歳ころには全ての歯が生え変わります。また、それまでは虫歯や歯周病になることも滅多にありません。それだけなら「どうせ生え変わるなら永久歯になってから歯磨きした方がいいの?」と思いがちですが、歯磨き自体は早期に訓練させた方がいいです。
これは何も歯磨きに限った話ではありませんが、犬に覚えさせたいことや慣れてもらいたいことは子犬の段階で訓練させておけば、成犬になってもストレスになることがありません。逆に、成犬になってから訓練しようとしても、犬が嫌がってしまい、犬も飼い主もストレスが溜まる一方です。
まして、犬の歯周病は3歳以上の子のうち8割が患うとすら言われています。早めに歯磨きに慣れてもらって、いつもキレイな歯を維持させてあげましょう。
歯磨きの頻度はどれくらい?
子犬の段階ではそこまで頻度を重視する必要はありません。あくまで訓練として、歯磨きに慣れてもらうことが先決です。成犬になってからは、毎日歯磨きするのが理想です。また、歯磨きにおいて大切なのは、頻度はもとより歯磨きの仕方です。特に犬は虫歯にはなりにくいですが、歯周病や歯肉炎にはなりやすく、歯周ポケットを掃除しないとすぐに歯ぐきが炎症します。
歯だけを磨くと歯周ポケットはキレイにならないため、完璧とはいえません。しっかりと歯垢を取り除くことを意識しましょう。ただ、どれだけキレイに磨こうと、いずれ汚れは溜まっていくものです。定期的に動物病院で歯石除去をしてもらいましょう。
犬の歯は大切にしよう
犬は虫歯にはなりにくいですが、歯周病にはなりやすいです。3歳くらいの犬ならば、歯周病になったことがない犬の方が珍しいとすら言えるでしょう。そのため、歯周病予防はもちろんですが、とにかく歯に異常が見られた際はすぐに動物病院に行くことも同じくらい大切です。
とはいえ、始めから無理に歯磨きをさせようとするとストレスの原因となります。スキンシップから始まり、徐々に慣れてから歯磨きをする事が大切です。歯磨きが楽しい時間になるよう、焦らずにゆっくりとを心がけましょう。